
2025年11月27日、アリババ傘下のテクノロジー子会社が自社開発した初のAI眼鏡「クァークAI眼鏡 S1」を正式に発売した。音声だけでなく、近眼ディスプレイを通じて視覚情報も提供するハイブリッド型ウェアラブルとして、同社のエコシステムと深く統合された点が注目されている。
製品概要と発売経緯
本機は2025年7月に開催された世界人工知能大会(WAIC)で初披露され、同年11月11日の「ダブルイレブン」期間中に先行予約が開始された。予約開始から約2週間後の2025年11月27日に一般販売が開始され、国内外のメディアで実機評価が行われた。
デザインと装着感
AI眼鏡としての実用性は、まず装着感に左右される。クァークAI眼鏡は「隠れる」ことを第一設計目標に、外観は一般的な黒縁メガネとほぼ同一に仕上げられている。
外観と素材
フレームはチタン合金と高強度プラスチックを一体成形したダブルインジェクション方式で、表面は肌触りの良いPU塗装が施されている。レンズ部分は従来の光波導レンズと処方レンズを一体化した設計で、追加のクリップや磁石は不要だ。
重量とバランス
公式データによれば、レンズ込みで本体重量は約52gである。重量配分は前後1:1のバランス設計となっており、鼻パッドと耳掛けの両方に均等に負荷がかかるため、2時間以上の連続装着でも鼻梁に圧痕や耳の痛みは報告されていない。レッグ幅は7.5mmと非常に細く、同クラスの競合製品に比べて40%以上細身である。
近眼ディスプレイ技術
本機の最大の特徴は、レンズ内部に配置された近眼ディスプレイである。Micro‑LED を用いた最小サイズの光学エンジン(光機)と、2次元拡大光格子を組み合わせ、最大4000ニットの輝度を実現している。屋外の正午でも文字やアイコンははっきりと視認でき、光格子の設計により側面からの漏光は極めて低い。
光波導とMicro‑LED
光機はレッグ内部に搭載されたマイクロディスプレイで、映像は光波導を通じてレンズ全体に伝搬する。全反射原理を利用した光波導は、画像を損失なくレンズ端部へ導き、ナノレベルの出力光格子が眼前に浮かぶように映し出す。これにより、ユーザーは頭を向けた方向に常に画面が固定され、HUD(ヘッドアップディスプレイ)に近い体験が得られる。
エコシステムとの統合
クァークAI眼鏡はアリババグループが提供する「千問」や「クァークAI」サービスと深く連携し、淘宝(タオバオ)、支付宝(アリペイ)、高德(ガオデ)マップ、飛猪(フライト)などの主要サービスを眼鏡上で操作できるように設計された。
阿里バリューチェーンへの深い接続
音声コマンドで「你好夸克」や「你好千问」と呼び出すと、AIが即座に質問に応答し、同時に近眼ディスプレイにテキストや画像を表示する。例えば、ナビゲーション指示は音声と共に画面上にルートが示され、支払い確認や価格比較結果も視覚的に提示されるため、情報取得の速度と正確性が向上する。
操作性とバッテリー交換
レッグ側面にはタッチ領域が配置され、スワイプやタップで音量調整や画面切替が可能だ。右レッグには独立した電源・画面切替ボタンと、撮影用の二段階ボタンが備わっている。バッテリーはレッグ内部に組み込まれた取り外し可能なモジュールで、ホットスワップが可能なため、電池を外しても本体は電源オフにならない。単体バッテリーでの連続使用時間は約7時間で、予備バッテリーを同梱したパックで「無限に近い」使用が可能とされている。
総合的に見て、クァークAI眼鏡 S1は「眼鏡らしさ」を保ちつつ、AIと近眼ディスプレイを融合させた実用的なウェアラブルとして評価できる。重量バランスの良さ、交換可能なバッテリーモジュール、そして阿里エコシステムとのシームレスな連携は、同クラスの他製品と比較して顕著な差別化要因となっている。今後、スタンドアロンでのAI処理や、より軽量化された光学部品の開発が進めば、さらなる市場拡大が期待されるだろう。