
近年、AIによるプログラミング支援ツールは急激な進化を遂げていますが、開発現場における大きな課題として「ステートレスな対話によるコンテキスト(文脈)の喪失」や「複雑な複数工程にまたがるタスクにおける自律性の限界」が挙げられます。数万行から数百万行規模の大規模なプロジェクトでは、AIがセッションごとに設計指針や変更履歴を「忘れて」しまい、不完全なコードを出力して手戻りが発生することが日常茶飯事です。
このエンジニアリング上のボトルネックを根本から解消すべく、中国のテクノロジー大手・Xiaomi(シャオミ)のMiMo技術チームが、2026年6月11日、新しいオープンソースのターミナルネイティブAIコーディングエージェント「MiMo Code (v0.1.0)」を正式リリースしました。
MiMo Codeは、オープンソースのターミナルAIアシスタント「OpenCode」をベースに開発され、非常に寛容なMITライセンスのもとで提供されます。個人開発者から企業の商用利用まで、自由な改変と統合が可能です。
1. 永続的な記憶システム:SQLite FTS5による3層メモリ管理
MiMo Codeが従来のAIチャットや一般的な単一ファイル編集エージェントと一線を画す最大の技術的特徴は、「SQLite FTS5(全文検索エンジン)」をバックエンドに採用した永続メモリシステムにあります。
開発者が長時間のセッションを再開するたびにプロジェクトの背景を説明し直す必要はありません。エージェントは、以下の3つの階層的なデータファイルを通じてプロジェクトの状態を構造化して保存・復元します。
- プロジェクト記憶 (
MEMORY.md): プロジェクト全体の構造や主要なアーキテクチャの決定事項、コーディングルール、以前に解決したバグのノウハウなどを永続的に記録。 - セッションチェックポイント (
checkpoint.md): 現在実行中の対話セッションにおける一時的な作業状態や実行のスナップショットを保持。 - タスクログ (
tasks/<id>/progress.md): 複雑なタスクを階層化されたサブタスク(例: T1, T1.1, T1.2)に分解し、それぞれの進行状況を逐一追跡。
これらのメモリ管理は、メインのエージェントとは独立した「checkpoint-writer(チェックポイント・ライター)」と呼ばれる専用のサブエージェントがバックグラウンドで自律的に行います。これにより、人間が意識せずとも、長期間にわたるやり取りの中で記憶の整合性が自動的に保たれます。

2. 自己進化するAIエージェント:夢を見るコマンド「/dream」と「/distill」
MiMo Codeは、静的なツールではなく、使い込むほどにプロジェクトと開発者のスタイルを学習して自律的に成長する「パートナー」として設計されています。それを象徴するのが、独自のライフサイクル最適化コマンドです。
- 夢を見る進化コマンド「
/dream」: 開発の区切り(例えば7日ごと)に起動されるこのコマンドは、独立したエージェントが過去のセッション履歴や作業ログをスキャンし、情報の重複排除(デデュプリケーション)、古い設計判断のクリーンアップ、参照パスの検証、情報の圧縮と統合を実行。この「自己蒸留」プロセスを通じて、AIのグローバルなプロジェクト理解が常に最新かつコンパクトに保たれます。 - スキルの結晶化コマンド「
/distill」: 開発者が何度も手動で繰り返している定型的なコマンドや開発ワークフローをAIが検知。それらを自動で再利用可能な「カスタムスキル」や「サブエージェントの処理パターン」として切り出し、ツール自体を動的にパーソナライズ化します。
3. 全自動での実装と検証を実現する「Composeモード」
MiMo Codeは、コードを提案するだけの存在ではありません。仕様書の記述から最終的なコードのデリバリーまでを自律的にオーケストレートする独自の「Compose(コンポーズ)モード」を備えています。

開発者が抽象的なアイデアやスペックを定義すると、AIエージェントが以下の閉環フローを全自動で稼働させます。
- タスクプランニング: 目的達成のために必要な変更ファイルを一覧化し、ツリー構造のサブタスクを作成。
- テスト駆動開発(TDD)の実行: 実装前にまずテストコードを作成。
- コード実装: ターゲットコードを正確に書き換える。
- 検証ループと目標チェッカー(/goal): AIエージェントが「タスクは終わった」と楽観的に判断して未完成のコードを放置する問題を解決するため、独立した「Judge(判定)モデル」がテストの合否やビルド結果を客観的にチェック。基準をクリアするまでデバッグループを継続させます。
- 静的解析・コードレビュー: 最終的な交付物がプロジェクトの規約に適合しているかを監査。
4. マルチモデル互換とテンセントVAD連携の音声入力機能
エージェントの柔軟性を高めるため、MiMo Codeは多様なモデルとの連携を強力にサポートしています。
- 内置の無料多クラス最先端モデル「MiMo-V2.5」: ツールには、期間限定で無料試用できるXiaomiのフラグシップ多機能モデル「MiMo-V2.5」があらかじめ組み込まれています。オフラインの性能検証では、コード生成能力において Claude 3.5 Sonnet に匹敵する高い評価を記録しています。
- 主要な大規模言語モデル(LLM)への対応: 開発者のニーズや予算に応じて、APIキーを設定するだけでDeepSeek、Kimi、GLM、Gemini、Claudeなど業界主流のLLMに切り替えることができます。
- 音声入力によるハンズフリー開発:
TenVAD(ボイスアクティビティ検出)技術と「MiMo-V2.5-ASR(音声認識)」を統合。ターミナル上で「
/voice」コマンドを打てば、無音区間の自動検出によってキーボードに触れることなく、自然な口頭指示だけでコーディングや修正を行うことができます。
5. ベンチマークでClaude Codeを超える実力を証明
Xiaomi MiMo技術チームが公開した実測データによると、同等レベルの推論エンジンを用いたベンチマークにおいて、MiMo Codeはオープンソースおよびクローズドの主要エージェントを凌駕するスコアを達成しました。
大規模かつ実用的なバグ修正能力を測るテストスイート「SWE-bench Pro V2」、およびコマンドライン操作の自律性を測る「Terminal Bench 2」の両方において、Anthropic社が提供する最先端の「Claude Code」を上回るタスク達成率を記録。独自の複数推論並列生成(Max Mode / Best-of-N reasoning)とJudgeモデルの厳密な判定が、難解なバグ修正で極めて有効に機能した結果とされています。
6. クイックスタート:ワンコマンドでインストール
MiMo Codeは、macOS、Linux、Windows(WSL環境含む)の主要なプラットフォームに幅広く対応しており、ターミナルから以下のコマンドを入力するだけで即座にインストールして使用を開始できます。
curl -fsSL https://mimo.xiaomi.com/install | bash
インストール後、ワークスペースディレクトリで mimo-code と入力すれば、洗練されたターミナルTUIが立ち上がります。さらに、すでに他のツールを使用している開発者のために、「Claude Code」からの設定値や認証トークンをワンステップでそのまま引き継いでインポートできる移行ユーティリティも提供されています。
XiaomiがCoding Agentの領域に本格参入し、MITライセンスという非常にオープンな形で「モデル + エージェント」の生態系を提示したことは、AIエンジニアリングのエコシステムをさらに活性化させるエキサイティングな一歩となるでしょう。
- GitHub: XiaomiMiMo/MiMo-Code
- 公式サイト / ドキュメント: mimo.xiaomi.com